【事案の概要】
・再審査申立人:X組合
・再審査被申立人:東京都
・平成22年10月26日、組合は、東京都(都)総務局(総務局)長宛てに、専務的非常勤職員、臨時的非常勤職員及び専門的非専務的非常勤職員(各非常勤職員)の賃金ないし報酬(都の「非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例」に基づき定められる賃金を「報酬」ということがある。また、同条例を「非常勤報酬条例」と略称)改定等の労働条件に関する要求書及びその内容を議題とする団体交渉(団交)の申入書を提出し、同団交への総務局の出席を求めた
・都は、東京都産業労働局(産労局)から組合に対し、交渉の内容に応じて所管局が団交に対応する旨及び総務局は出席しない旨の連絡をした
・組合は、賃金等労働条件を決定するのは総務局であり、総務局と直接交渉できなければ団交とはいえないなどと述べ、結局、上記団交申入れに応じた団交は開催されなかった
・その後も、組合から10回にわたり、総務局長宛に団交申し入れたが(本件団交申れ)、都は、その都度、産労局から上記と同内容の連絡をし、結局、一度も団交は開催されなかった
・組合は都の対応が不当労働行為に当たるとして東京都労働委員会(東京都労委)に対し救済申立てをした
【中労委の判断の要旨】
1、団交の担当者について(判断枠組み)
「一般に、団交に関して、使用者側において現実に交渉に当たる交渉担当者の人選は、原則として使用者が自由に決定することができるものであり、特定の交渉事項について決定権限がない場合でも、当該交渉担当者が交渉事項について実質的に回答し、説明を行い、あるいは協議をする等の対応をする権限を与えられている限りは、当該交渉担当者による団交が直ちに不誠実になるものではない。しかしながら、当該交渉担当者が当該交渉事項について実質的に回答や説明等の対応をする権限を与えられていないといえる場合には、当該交渉担当者による団交は、実質的に交渉権限を与えられていない者による団交として不誠実な団交に当たると解するのが相当である。
本件においても上記の理は妥当し、交渉権限を与えられた各局が本件で交渉を求められた事項について決定権限がなかったとしても、各局が交渉担当部局となって行う団交が直ちに不誠実になるものではない。他方で、交渉担当部局が当該交渉事項について実質的に回答や説明等の対応をする権限を与えられていないといえる場合には、当該部局による団交は、実質的に交渉権限を与えられていない者による交渉と評価され、不誠実な団交に当たると解するのが相当である。
その場合、交渉権限付与に係る使用者内部の事情を詳らかにすることは困難を伴うことに鑑みると、実質的に交渉権限が与えられているといえるかどうかは、団交が行われた場合には、基本的に、交渉担当者として当該団交に当たった者が、当該団交の場において実際にどのような回答や説明等を行ったか等によって判断されるものである。
これに対し、団交が実際に行われる前に、使用者が選任した交渉担当者に組合側が反対したため、結局団交が行われなかった場合においては、上記のように団交の場において実際にどのような回答や説明等を行ったか等に基づいた判断をすることはできないが、使用者が当該交渉担当者を選任したことにより、当該交渉事項に関する団交が誠実に行われないおそれが明らかに存在すると認められる場合には、実質的に交渉権限が与えられていない者を交渉担当者として対応したものと評価せざるを得ないため、組合側が実質的に交渉権限を有する者との団交を求め、当該交渉担当者との団交を拒んだとしても、かかる使用者の対応は、労組法第7条第2号に該当するものと解するのが相当である。
本件でも、本件団交申入れについて団交が実際に行われる前に、都側が 各局を担当部局として対応する方針を示したのに対し、組合側が総務局の出席を求めたため、結局本件団交申入れに係る団交が行われなかったものであり、かかる事案においては、本件の具体的な事情に照らし、都側が総務局ではなく各局を交渉担当部局として対応する方針をとったことにより、当該交渉事項に関する団交が誠実に行われないおそれが明らかに存在すると認められる場合には、組合側が実質的に交渉権限を有する者との団交を求め、実質的な交渉権限がないとして当該担当部局との団交を拒んだとしても、かかる都側の対応は、労組法第7条第2号に該当するものである。
そして、本件では、本件団交申入れ以前に、同申入れと共通する要求内容について組合と各局との間で団交が行われていること等に鑑みれば、総務局ではなく各局が交渉担当部局とされたことにより、組合が交渉を求めた事項に関する団交が、実質的に回答や説明がなされないなど誠実に行われないおそれが明らかに存在すると認められるかについては、交渉事項に係る決定権限等の所在に加え、本件団交申入れ以前に行われた各局との団交等の状況を踏まえて判断するのが相当である。また、付加的に、同申入れ後に行われた各局や総務局との団交等の状況、C2組合(※知事部局等の職員が組織する職員団体)に対する都の対応等の事情も併せて考慮した上で判断するのが相当である」
2、都の対応に係る不当労働行為の成否(あてはめ)
(1)組合の要求に係る決定権限について
本件団交申入れにおける組合の要求のうち、各非常勤職員に共通する賃金制度の見直しなどの制度的な対応を必要とするものについては、各局が一定の影響力をもつとしても、実質的には、非常勤職員制度の企画、立案や条例の立案を所管する総務局が知事部局内での意思決定について実質的な権限を有していたとみざるを得ない。また、職業能力開発センター講師の報酬算定に係る要求については、総務局が一定の影響力を有していたものと推認される。
(2)本件団交申入れ以前の各局との交渉状況について
本件団交申入れ以前に、組合と都は消費生活相談員や職業能力開発センター講師の賃金等労働条件に係る団交を行い、都側は各局が対応した。それらの団交では、総務局が実質的な決定権限や一定の影響力を有し、各局は決定権限を有していなかった要求事項があるものの、全体としてみれば要求に応じられない理由について相応の説明を行っており、また、都においては団交の前後に総務局と各局の連絡協議会を開催し、要求内容について決定権限がなくとも実質的な交渉を行い得る体制をとっていた。各局がした回答の一部には、要求に関する団交が誠実に行われない抽象的なおそれを感じさせるものがないではないものの、要求の性格等団交の経過全体をみれば、それを超えて、総務局ではなく各局が交渉担当部局とされたことにより、組合の要求に関する団交が誠実に行われないおそれが明らかに存在すると認められるとはいえない。
→本件団交申入れ以前以前の交渉状況をもって、都が実質的に交渉権限を与えられていない者を交渉担当としたものと評価することはできない。
(3)本件団交申入れ後の各局及び総務局との交渉状況について
本件団交申入れ後に行われた非常勤職員制度の見直しに係る各局及び総務局との交渉状況や、職員団体等の要請に総務局が対応したことを考慮しても、上記の評価を左右するものではない。
【事案の概要】
・原告:株式会社冨士屋の代表取締役であったP3の妻であり(平成25年4月に離婚)、財産分与によりP3から原告に所有権が移転された私邸(本件居宅)に居住していた
・被告:東京都千代田区や中央区の労働者を中心に結成された労働組合
原告が、被告の情宣活動により平穏に生活を営む利益(人格権)を侵害されたなどと主張して、被告に対し、人格権侵害に基づく妨害排除請求権により、以下の被告の行為の差止めを求めるとともに、被告の違法な情宣活動により精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償として275万円の支払を求めた事例
・被告は、平成25年7月21日〜同年10月18日までの間(合計5回)、組合員複数名で、本件居宅付近においてシュプレヒコールなどを行うほか、書面をポストに投函し、P3との面談交渉を求めるなどの情宣活動(本件行為)を行った
原告が差止めを求めた内容
1 被告は、原告に対し、自ら又は第三者をして、次の行為をしてはならない。
(1)原告の住所地(東京都文京区α×丁目××番×号)所在の原告自宅正面玄関前の白色門柱(北側)に設置されたインターフォンのボタンの中心地点(別紙写真の赤色矢印先端部分)から半径200メートル以内の近隣をはいかい若しくは滞留し、演説を行い、シュプレヒコールをあげ、又は書簡その他の書面を郵便ポストに投函するなどして原告の生活の平穏を害する一切の行為。
(2)原告に対し、電話・文書・面接等により直接交渉を強要する行為。
【結論】
上記の差止請求・55万円の限度で損害請求は認容、その余の請求は棄却
【判断の要旨】
1、本件行為の権利侵害性について
①本件行為の行われた本件居宅は、冨士屋の営業とは関係がない閑静な住宅地に所在する住宅であり、そもそも、労使交渉の場となるべき企業外の場所である。しかも、本件行為の当時、本件居宅にP3は居住しておらず、本件居宅には、P3の元配偶者である原告とその娘が居住するのみであった
②本件行為の態様は、本件居宅前に組合員らが複数人で赴き、一定の時間(中には1時間弱の時間)滞留するというもので、家人であった原告が、P3はいないので対応できないなどとして引き取るよう求めても、容易にこれに応じず、警察を呼ぶと申し述べても団体交渉要求書を受け取って取り次ぐよう強く求めるなどし、原告が、P3と別れて関係がなくなっており、引き取られたい旨を述べても退去をせず、本件居宅に向けて口々に声を上げ、ときには被告の考え方を大きな声で本件居宅に向けて述べ、強い言葉で批判し、家人でもいいから対応せよと強く求めるものであった
③こうした状況が閑静な住宅地に出現したことも手伝い、近隣の者が不穏に思って来意を尋ねるといった事態を生じたこともあった
④警察官が臨場することもあったが、被告組合員は声を上げるといった行為を容易に止めず、むしろ、かえって声を張り上げ、シュプレヒコールをあげるといった行為に及ぶこともあった(被告はマイクを使用していないこと等を指摘し、シュプレヒコールに該当するようなものではいなどと主張するが、マイクを使用していなかったからといってシュプレヒコールでなかったなどとは到底いえない。)
⑤こういった行為を行う被告の態度は、原告の意を受けた冨士屋代理人の通告や本件仮処分決定があってもなお改まらなかった(※平成25年8月18日に被告組合員9名が本件居宅に赴いた後、同月28日に原告が上記請求と同旨の仮処分の申立てをし、同年9月5日に仮処分の決定を得た)
→本件行為は、いかにそれが冨士屋の不当な措置等に関し、P3から納得し得る説明を求める趣旨に出たものであったとしても、元配偶者であり私邸たる本件居宅に居住するにとどまる原告において、本件行為を受忍すべき理由はなく、本件行為は、原告に対する関係では、その私邸で平穏な生活を享受するという原告の人格権を侵害するものであったといわざるを得ない
2、本件行為の違法性
(1)判断枠組み
本件行為は原告の権利を侵害するものであるから、特段の事情がない限り、本件行為については、その違法性が認められるというべき
(2)あてはめ
被告は、冨士屋が団体交渉に容易に応じず、商業登記簿上、代表者であるP3の住所地が原告の肩書住所地とされていたことからすると、その住所地である本件居宅でP3宛に行った本件行為は正当な組合活動として許容されるべきである旨主張する。
しかし、
①使用者の代表者であっても、私生活上の権利は尊重されるべきであるから、仮に本件居宅にP3が居住していたとしても、私生活の中心となる場である本件居宅において、被告がP3に対し団体交渉に応じるよう要求し、本件行為を行うことが正当化されるわけではない
②まして、本件では、本件居宅にはP3は居住しておらず、元配偶者である原告には本件居宅において本件行為を受忍すべき理由はないから、被告が主張する事情は、本件行為の違法性を否定する理由となるものではない
③使用者である冨士屋の破産開始決定後になされた本件行為に係る団体交渉の申入れ等の行為(P3宛に解雇や労働債権等に関して団体交渉を申入れる行為)の正当性は、P3が代表者の地位を失い(会社法330条、民法653条1項)、破産財団に関する権限が破産管財人に専属する(破産法78条1項)こととなったことに伴い、そもそも容易に是認し難いし、その実効性にも疑問がある
④本件仮処分決定が効力を生じた後になされた本件行為については、法の定める手続に則ってなされた裁判を無視し、法秩序を蹂躙するものであって、到底容認することができない
⑤被告は、本件行為が表現の自由との関係でも許容されるべきであるとも主張する。
しかしながら、労働組合の組合活動について認められる表現の自由も、私人相互間の関係が問題となる本件のような場合には、原告の住居の平穏に関する人格的利益との関係で、一定の制約を受けることを免れないのであり、本件行為の行われた場所や態様、正当性や実効性等に照らすと、被告の主張は、本件行為の違法性に関する上記判断を左右するに足りるものではない
→本件行為の違法性を否定すべき事情はないから、本件行為は原告の権利を侵害した違法な行為ということができる
3、損害賠償請求について
(1)不法行為該当性
①被告が、原告からP3の不在を告げられ、退去を求められたにもかかわらず、これに容易に応じなかった
②原告及びN弁護士から原告はP3と離婚しておりP3は本件居宅には居住していないことを告げられた後も、漫然と同様の行動を繰り返している
③本件仮処分決定後も本件居宅を訪れている
→被告には本件行為につき故意又は過失があると認められる
→被告は、原告に対し、本件行為によって故意又は過失により違法に原告の権利を侵害したものというべきであるから、これにより生じた損害を賠償すべき責任がある。
(2)損害額
本件行為の各行為態様、特に、本件行為が弁護士からの通告後も継続していることや、法の定めに従い、被告にも手続保障の機会が付与された上で本件仮処分決定が発せられたにもかかわらず、少なくとも裁判は遵守されるであろうとの原告の期待を踏みにじって、客観的には無益といわざるを得ないような従前と同様の行為が反復されたこと、その他本件記録に顕れた諸事情を考慮すると、原告について生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円を認めるのが相当である
そして、その1割相当額である5万円を相当因果関係の認められる弁護士費用相当額として認めるのが相当
4、差止請求について
本件行為は違法に原告の権利を侵害する行為であるところ、その行為態様に加え、被告が現時点においても本件行為は正当である旨主張し続けている
→本件差止請求の必要性は、これを肯認することができる
【事案の概要】
・被控訴人建材センターは、生コンクリートの製造及び販売等を業とする特例有限会社
・被控訴人Aは、その代表取締役
・被控訴人ミトミ(被控訴人ミトミと被控訴人建材センターを併せて「被控訴人二社」)は、土木工事及び建築工事の請負等を業とする株式会社
・被控訴人らが、被控訴人二社の商品納入現場、請負工事現場、取引先又は被控訴人Aの自宅の周辺等における控訴人の組合員又は関係者による街頭宣伝活動(街宣活動)、ビラ配布又はシュプレヒコール(これらを併せて「街宣活動等」)によって、被控訴人二社は営業権を侵害され、名誉や社会的信用を毀損され、被控訴人Aは平穏な生活が害され、名誉や社会的信用を毀損されたなどと主張し、各行為の差止めや不法行為に基づく損害賠償請求をした
【結論】
・控訴人は、被控訴人建材センターに対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人建材センターが生コンクリートの納入作業を行い、又は行った地点から半径300メートルの範囲内、及び被控訴人建材センターと取引関係のある業者の事務所から300メートルの範囲内において、被控訴人建材センター又は被控訴人ミトミを非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
・控訴人は、被控訴人ミトミに対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人ミトミが土木建築工事を受注している工事現場から300メートルの範囲内、及び被控訴人ミトミと取引関係のある業者の事務所から300メートルの範囲内において、被控訴人ミトミ又は被控訴人建材センターを非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
・控訴人は、被控訴人Aに対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人Aの自宅(略)の北側門扉の支柱(別紙写真(略)のもの)の中央の地点から半径300メートルの範囲内において、被控訴人らを非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
・被控訴人Aに22万円、被控訴人建材センターに55万円、被控訴人ミトミに110万円
・(ビラ配布については差止が認められない)
【判断の要旨(ビラ配布について)】
1、甲組に対する訪問・ビラ配布について
控訴人は、平成24年7月11日、被控訴人二社の共通する取引先である甲組を訪問し、本件ビラを配布した。
本件ビラの記載は、大要、被控訴人ミトミが、大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けた行為のほかにも従業員に対する嫌がらせを行っており、そのような不当な扱いによって適応障害を発症した同従業員の病状が回復した後の職場復帰を拒否している旨の事実を摘示するものであるから,これを被控訴人ミトミの取引先に配布することは、被控訴人ミトミの社会的評価を低下させ、その名誉や社会的信用を害するものといえる。
①しかし、ビラ配布については、前認定以外の具体的な態様は明らかではないものの、その回数が1回にすぎず、甲組の営業自体に対する影響はほとんどないと考えられることに加え、被控訴人ミトミとしては、本件ビラの記載に関し、甲組に対して反論や経緯の説明をすることが可能であることからすると、甲組をして、被控訴人ミトミとの取引を躊躇させるものとまではいえず、被控訴人ミトミの営業を妨害するものとはいえない
②他方、本件ビラの記載は、何ら被控訴人建材センターに言及するものではないから、同被控訴人の社会的評価を低下させるものとはいえない。
③甲組は被控訴人建材センターの取引先でもあったとはいえ、ビラ配布の回数が1回にすぎず、甲組の営業自体に対する影響はほとんどないと考えられることに加え、被控訴人建材センターと被控訴人ミトミはあくまで別法人であり、被控訴人建材センターとしては、その旨を甲組に説明することが可能であることからすると、甲組をして、被控訴人建材センターとの取引を躊躇させるものとまではいえず、被控訴人建材センターの営業を妨害するものとはいえない
④被控訴人ミトミを批判するものであり、必然的にその経営陣に対する批判を含むことにはなるが、前認定の内容に照らし、取締役等の経営者個人を殊更に攻撃するものとまではいえないから、被控訴人Aの名誉を毀損するものとはいえないから、被控訴人Aの名誉を毀損するものとはいえない
2、違法性について
本件ビラの記載は、被控訴人ミトミが組合員に仕事を与えず、終日監視カメラを設置した倉庫で待機させたとする点や、適応障害の症状の回復した従業員の職場復帰を難癖をつけて拒んでいるとする点において、その真実性又は真実相当性を認めるに足りる証拠はない。しかし、
①大阪府労働委員会による不当労働行為の認定やその対象行為に関する事実摘示は正確である
②そもそも前認定以外の具体的なビラ配布の態様は明らかでない
③回数が1回にすぎず、被控訴人ミトミやその取引先の営業を妨害するものともいえない
④被控訴人ミトミとしては、直接取引先に対して反論や経緯の説明をすることが可能性である
→正当な範囲内の組合活動ということができ、違法性が阻却されるというべき
【事案の概要】
・再審査申立人(組合):管理職ユニオン・関西
・再審査被申立人(会社):株式会社リコー
・組合は、会社に対し、平成25年3月18日付で、会社に対し、A2組合員の組合加入を通知するとともに、A2組合員の復帰等を交渉事項とする団体交渉を申し入れた(3.18団体交渉申入れ)
・同年4月18日に団交を開催(会社側の出席者は人事本部の従業員B2と代理人弁護士2名の計3名)
・同団交では、組合は、弁護士が法的アドバイザーとして同席し、発言することは認めるが、弁護士が中心となって発言することは認めないなどとして、会社代理人弁護士に発言を控えるよう述べ、また、 B2に対し、A2組合員に対して退職勧奨をした理由について回答するよう求め、会社の代表として出席しているのか質問した。そのため、会社代理人弁護士は、組合が弁護士の発言を認めないというスタンスをとり、一方的に回答者を決めるのであれば、団体交渉の進め方を決めてからでないと議題について交渉できない、誠実に交渉をしてできる限りの説明をしたかったが、組合の交渉の進め方が不誠実であり、やむなしと判断する旨述べ、会社代理人弁護士ら3名は退席した。
・組合は、同月19日付けで、今後は、会社の責任ある役員を代表とする交渉委員の選出、出席を要請し、会社代理人弁護士については、事前に希望があれば法的アドバイザーとして出席を認めるものの、会社側交渉担当者としての出席は認めない旨通知し、改めて、A2組合員に対し退職勧奨を行った時期、具体的理由及び選定基準、A2組合員に対する出向の解除と前職への復帰、A2組合員に対する一方的評価と面談等を交渉事項とする団体交渉を申し入れ、同月26日までに回答するよう求めた(4.19団体交渉申入れ)
・組合は、会社が4.19団体交渉申入れに対して回答していなかったため、平成25年5月2日付で、会社に対し、会社からS社に出向していたA2組合員の復帰等を交渉事項とする団体交渉を申し入れ(本件団体交渉申入れ)、同月8日までに回答するよう求めた。
・会社代理人弁護士は、同月10日付けで、組合に対し、会社は、4.19団体交渉申入れに対し同月23日付けで既に回答しており、その中でも述べたとおり、会社代理人弁護士を会社側交渉担当者として認めず、法的アドバイザーとしての出席しか認めないことを前提とした組合からの団体交渉申入れには応じられない、また、会社は、この問題を解決するため大阪府労委に対してあっせんを申請しており、組合からの団体交渉申入れに応諾する前提として、上記あっせん手続においてこの問題について話し合いたい旨回答(5.10回答)
・組合は、平成25年5月16日、団体交渉における窓口及び交渉担当者に関する組合と会社との主張が対立し、あっせんに応じても進展の見込みがないと判断し、会社が申請したあっせんを辞退するとともに、同月31日、大阪府労働委員会(大阪府労委)に対し、救済申し立てたが、大阪府労委はこれを棄却
・組合は、上記命令を不服として平成26年3月13日付で再審査を申し立てた
【結論】
不当労働行為に当たらない(団交拒否ではないし、仮に団交拒否に当たるとしても正当な理由がある)
【中労委の判断】
1、団体交渉において使用者側の交渉担当者となり得るのは、使用者の代表者又は当該企業組織内において代表者から交渉、決定権限の委任を受けた者等に限られ、弁護士は、たとえ使用者から委任を受けたとしても、飽くまで法的アドバイザーにすぎないから、団体交渉に対する代理人弁護士の回答は会社の回答ではなく、会社が本件団交申入れを無視し、回答しなかったことは不当労働行為である旨の組合の主張について
(1)判断枠組み
「弁護士は、当事者その他関係人の依頼により、法律事務を行うことを職務とし(弁護士法第3条)、これに関する限り、交渉等を含むあらゆる行為をすることもその職務の範囲内であると解されるところ、団体交渉も上記法律事務に当たるのであるから、使用者の依頼により交渉担当者として団体交渉に出席し、交渉等をすることもまた、弁護士の職務に当然含まれる。そして、具体的な場合に、弁護士にどのような権限が認められるかは、労組法に使用者による委任を禁止ないし制限する定めがない以上(同法第6条は、その立法趣旨や文言等からして同定めには当たらない。)、この点に関する労使間の合意等がない限り、使用者が当該弁護士にどのような権限を委任(民法第643条、第656条)したかによるのであって、弁護士であるという一事をもって、団体交渉における弁護士の権限が法的な助言等に限られるわけではない。組合がその主張の根拠とする各文献の記載は、上記のような具体的な権限の委任がない場合に関するものであり、使用者が弁護士に交渉、処理権限を具体的に委任した場合にまで、当該弁護士が交渉担当者となることを否定するものではないと解される。」
(2)あてはめ
組合と会社との間には、交渉担当者に関する合意等は存在しなかったところ、
①会社代理人弁護士は、3.18団体交渉申入れに対し、会社の代理人として本件の対応について委任を受けた旨通知して申入れを応諾する旨回答し、併せて今後は会社代理人弁護士が本件に関する連絡先となる旨通知しており、4.18団体交渉において、会社側交渉担当者として交渉権限及び一定の妥結権限を付与されて出席している旨説明しており、4.18団体交渉後も会社の代理人として組合に対する抗議や回答を行っている。
②もとより、これらは委任を受けたとする者からの通知や説明であり、委任をしたとする会社からのものではないが、会社は、申立外労働組合との間で行われた、4.18団体交渉と同種の事項を交渉事項とする団体交渉においても、会社代理人弁護士を会社側交渉担当者として出席させていたものである。
→これらの事実を総合すると、会社は、会社代理人弁護士に対し、交渉事項であるA2組合員の復帰等に関する窓口交渉を含む交渉権限及び一定の妥結権限を委任したものと推認することができ、会社代理人弁護士による5.10回答は、会社から委任された権限に基づいてされたものといえる。
→会社代理人弁護士による5.10回答は、会社の回答そのものであると認められるから、組合の上記主張は、前提に誤りがあり失当である。
2、会社代理人弁護士による本件団交申入れには応じられない旨の回答(5.10回答)は、正当な理由のない団交に当たるかについて
①4.18団交において、代理人弁護士は、会社から交渉担当者としての交渉権限及び一定の妥結権限を付与されていること等を説明するなどして交渉事項について交渉するよう促したにもかかわらず、組合は、弁護士は法的アドバイザーにすぎず、弁護士が中心となって発言することは認められないなどという主張に固執し、代理人弁護士に発言を控えるよう述べるなどといった態度をとり続けた。4.18団交後も、代理人弁護士による再三にわたる説得にもかかわらず、組合は、従前の主張に固執し、これを譲る姿勢を全くみせなかった。
→こうした組合の態度に照らせば、本件団交申入れ当時、このまま交渉担当者の問題について解決せずに組合と団交を行っても、4.18団交と同様に、組合が弁護士を交渉担当者として認めないという自己の見解に固執し、交渉事項について実質的な交渉をすることができない可能性が高かった。
②代理人弁護士による5.10回答は、こうした状況の下で行われたものであり、その回答内容も考慮すると、その趣旨は、弁護士が交渉担当者として出席することを認めないという組合の主張には応じられないとしつつも、4.18団交と同様の事態が生ずるのを回避し、正常な団交を行うべく、本件団交申入れを応諾する前提として、本来労使間で合意の上取り決めるべき団交ルールの一つである交渉担当者の問題についてあっせん手続において話し合い、交渉担当者の問題が解決した後に団交を行うことを提案したものと解するのが相当であり、これをもって団交を拒否したものと認めることはできない。
③仮に、5.10回答が団交拒否に当たるとしても、上記のとおり、本件団交申入れ当時、交渉担当者の問題を解決せずに組合との間で団交を行っても、組合が弁護士を交渉担当者として認めないとの自己の見解に固執し、交渉事項について実質的な交渉ができない可能性が高かったという事情の下においては、代理人弁護士が本件団交申入れを拒否したことには、正当な理由がある。
【事案の概要】
・控訴人(一審原告):協和出版販売株式会社(書籍及び雑誌等の取次販売を業務内容とする株式会社)
・被控訴人(一審被告):国
・被控訴人(一審被告)補助参加人:協和出版販売労働組合
・補助参加人組合は、平成12年6月1日、嘱託従業員の基本給税込み19万5000円では55歳以降の従業員の生活は成り立たず、60歳の定年延長とは名ばかりであり、54歳までしか賃金が保証されていないのが実態であって、55歳でなぜ基本給税込み19万5000円なのか、それ以上引き上げたら原告が倒産してしまうのかについて資料をもって答え、最近5か年分の〔1〕貸借対照表、〔2〕損益計算書、〔3〕営業報告書、〔4〕利益処分案(準備金、利益、配当に関するもの)、〔5〕附属明細資料としての販売管理費明細を提示することなどを要求(本件申入れ)
・補助参加人らは、平成13年3月28日、都労委に対し、原告が、団体交渉において、55歳以降の従業員の賃金を減額したことの根拠を資料を開示して説明しなかったことが不当労働行為に当たるとして、本件初審申立てをした。
・都労委は、平成17年11月15日、別紙1のとおり、原告に対し、〔1〕55歳に達した組合員の賃金について、団体交渉における説明を求められた場合は、貸借対照表、損益計算書等の特定項目のみにとどまらず、賃金決定の具体的根拠を説明する資料を提示するなどして、誠実に応ずること、〔2〕〔1〕に関する文書の交付、〔3〕〔2〕に関する履行報告を命じ、〔4〕平成12年3月27日以前に開催された団体交渉に係る申立てを却下する旨の本件初審命令を発した。
・原告は、本件初審命令を不服として、平成17年2月20日、中労委に対し、本件再審査申立てをした。これに対し、中労委は、平成18年10月18日、前記本件初審命令〔4〕を取消し、本件再審査申立てを棄却する旨の本件命令を発した。
・原告は、中労委の上記命令の取消しを求めたが、原告の請求を棄却された。
【結論】
控訴棄却(被控訴人の態度・対応は労組法7条2号所定の不誠実な団体交渉に該当)
【裁判所の判断】
1、判断枠組み
「憲法28条により労働者の権利として保障されている団体交渉は、労使が話合いを通じて、相互理解を深め、労使間に生ずる諸問題を自主的に解決するための手続であり、これを受けて、労組法7条2号は、使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むことを不当労働行為として禁止しているが、同号は、労使間の円滑な団体交渉関係の樹立を目的として規定されたものであるから、使用者は単に労働者の代表者との団体交渉に応ずれば足りるのではなく、使用者には、自己の主張を労働組合が理解し、納得することを目指して、見解の対立を可能な限り解消させることに努め、労働者の代表者と誠実に団体交渉をする義務があり、したがって、使用者が、当該義務を尽くさない場合には、そのような団体交渉態度が労組法7条2号所定の不当労働行為に当たると解される。
そして、使用者が誠実に団体交渉をしたか否かについては、団体交渉の申入れの段階における対応、交渉事項の内容、労働者側の態度等の具体的事情に応じて、団体交渉の場において労使の対立点を可能な限り解消させる努力を行っていたか、そのための方法として、労働組合が検討可能な程度の客観的な資料を提示するなどして、自己の主張の根拠を具体的に説明するなど相手方の納得を得るよう努力したかなどの観点から判断するのが相当である。
しかし、他方、使用者には、労働組合の要求又は主張を容れたり、それに対し譲歩をしなければならない義務まではないから、労使双方が当該議題についてそれぞれ自己の主張、提案、説明を出し尽くし、これ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至った場合は、使用者は誠実交渉義務を尽くしたものとして、労組法7条2号所定の不当労働行為に当たらないと解される。」
2、あてはめ
①補助参加人組合が、嘱託給の金額が妥当であるかどうかを判断するため、商法上(平成17年法律第87号による改正前の商法281条、282条及び283条)、作成及び公示・公告が義務付けられている本件計算書類の提示を要求し、また、売上金額について質問することは、どこまでの具体性・詳細性が求められるかは別として、少なくとも、団体交渉における交渉事項に関する情報提供の求めとしては相当なものというべき
②他方、原告としても、補助参加人組合が検討可能な程度の客観的な資料として、上記程度の財務上の資料を提示することにより特段の支障が生ずべき事情も見当たらない
→原告は、補助参加人組合に対し、何ら客観的な資料を提示せず、また、売上金額等も明らかにしなかったのであるから、上記義務を履行したとはいえず、原告は、補助参加人組合との間で、不誠実な団体交渉をしたというべき
【事案の概要】
・債権者Wは、大阪市所在のM診療所等を経営する医療法人南労会の常務理事(妻・小5の長女・小3の次女と同居していた)
・債権者Kは、南労会の理事であり、M診療所の事務長(妻・小5の長女・小3の次女と同居していた)
・債務者は全国金属機械労働組合港合同南労会支部
・債権者らが債務者に対して、債権者らの住居で債権者ら及びその家族に面会を強要したり、住居のドアを連打し、あるいはインターホンを押し続けたり、住居周辺などで街宣活動を行ったり、債権者らの名誉・信用を既存し若しくは侮辱する記事を掲載したビラを配布したりしないよう求めた。
【裁判所の判断】
1、判断枠組み
「南労会と債務者との労使紛争から派生した事案ではあるが、労使関係の紛争は本来的に職場領域に属するものであるから、労働組合活動が法人経営者側の私生活の領域において行われる場合には、その活動は労働組合活動であることをもって正当化されるものではなく、それが表現の自由の行使として相当性の範囲内にある限りにおいて、容認されることがあるにとどまるというべき」
2、あてはめ
(1)面会強要・ビラ配布について
債務者の組合員らの行為は、本来職場領域で解決されるべき労使紛争を法人理事ら個人の私生活の領域に持ち込み、ビラや横断幕に債権者らの自宅の部屋番号や電話番号を記載し、特に債権者Kについてはことさらに傍線や丸を付けて同債権者に関する部分を強調するなどして、地域社会における債権者らの名誉・信用を毀損し、侮辱を加えると共に、債権者らは無論のこと小学校低学年の児童を含むその家族にまで少なからぬ精神的衝撃を与えて、債権者らの平穏な生活を著しく侵害したものというべきである。しかるところ、右行為はその態様に照らして一般的な支援要請ではなくことさらに債権者らを狙い撃ちしたものと認められ、このような行為に出なければならないほどの緊急性、必要性が債務者にあったとは認められないから、仮に債務者が右ビラ及び横断幕等で主張するような事実が真実であったとしても、債務者の組合員らの右行為は、その時、場所及び態様に照らして表現の自由の行使として相当なものということはできない。
→債権者らは人格権に基づき右行為の差止めを求めることができ、ビラ配付が多数回に及んでいることその他本件の経過に照らすと、かかる行為が今後も繰り返されるおそれも一応認められるから、保全の必要性も認めることができる。
(2)ドア連打・インターホンを押し続ける行為について
ただし、債権者らの住居のドアを連打しインターホンを押し続ける行為の差止め請求については、債務者の組合員によってこのような行為が行なわれたと一応認めるに足りる疎明はなく、また、面会の強要を禁止すれば十分と考えられるから、却下することとする。
(3)差し止めの内容について
差し止めるべき発言、ビラ等の内容及び差し止めを命じる地域については、このような制限が表現の自由を制限する側面も否定できないことを勘案すると、各債権者の住居周辺における当該債権者に関するものを必要最小限において差し止めれば足りると考えられるから、主文記載の限度とするのが相当である。
もっとも、債務者のビラ及び横断幕等への債権者らの自宅の住所及び電話番号の記載の差し止めについては、右記載が債権者らの意思に反するものであり、このような情報が一般に流布することは、債権者らの人格権の一環であるプライバシーを侵害するものである反面、このような記載をする必要性は認め難いのであるから、地域の限定を付することなく認めることとする。
【事案の概要】
・申請人X1:申請外株式会社学習研究社の創始者であり、代表取締役会長
・申請人X2:申請人X1の子息であり、代表取締役社長
・被申請人:東京ふじせ企画労働組合(昭和52年12月4日、申請外株式会社東京ふじせ企画の従業員の内約20名をもって組織された労働組合であったが、申請外東京ふじせが昭和53年3月9日破産宣告により倒産し、これに先立つ同年1月20日、従業員全員を解雇した後も、この従業員の内13名が組合員として申請外学習研究社に対する抗議行動を中心とした活動を展開している)
【裁判所の判断】
1、面会強要等の行為の存否(被保全権利の存否)について
本件仮処分決定が認定・判断しているとおり、被申請人らの諸々の行為のうち、
①申請人らの居宅のインターホンを連打するなどして申請人らに面会を強要する行為及び右居宅の門前またはその付近において、拡声器を用いて演説を行い、またはシュプレヒコールを反復連呼するなどして喧騒音を発する行為は、申請人らの私生活の平穏を侵害するものであり、
また、
②申請人らの居宅の門前またはその付近路上において、申請人らを取り囲み、その身体に掴み掛かるなどして、申請人らの居宅からの出入通行を妨害し、または申請人らの乗車した自動車の前に立ち塞がったり、ボンネットに乗るなどしてその走行を妨害する行為は、
申請人らの行動の自由を侵害するものであり、そして、これらの行為は、その態様・期間・頻度・程度等からみて受認限度を超えたものということができる。
被申請人らは、申請外学習研究社は申請外東京ふじせのもと従業員に対し使用者としての責任を負うべき立場にあるから、被申請人らが申請外学習研究社に対し団体交渉を要求することは当然の権利であるとし、本件仮処分決定は、このような労使紛争の本質について全く言及しておらず、不当である旨非難する。
しかし、本件の争点は、被申請人らが主張するような申請外学習研究社が申請外東京ふじせのもと従業員に対し使用者としての責任を負うべき立場にあるか否かとか、被申請人らが申請外学習研究社に対し団体交渉を要求する権利があるか否かといった点にあるのではなく、前記争点として掲記したところ(※被申請人らの申請人らに対する差止請求の対象となる面会強要等の行為の存否(被保全権利の存否)と保全の必要性の有無
)にあるのであるから、本件仮処分決定が被申請人らの指摘する点を争点として判断を示していないことは当然のところであって、これを捉えて非難することは当を得ない。
また、被申請人らは、申請外学習研究社が被申請人らの団体交渉の要求を一切拒否しているという違法状態の下においては被申請人らの要求行動は受忍限度の範囲内のことである旨主張する。
しかし、被申請人らの申請人らに対する前記受忍限度を超えた面会強要等の行為が被申請人らの主張する団体交渉拒否の違法性の有無とは直接的な関わりがあるとは解せられないから、被申請人らの右主張は理由がない。
2、保全の必要性の有無について
当裁判所も、被申請人らの申請人らに対する前記認定の侵害行為の態様・程度は顕著であって現行法秩序のうえから到底許されるものではなく、さらに、被申請人らは、本件仮処分決定後も同様の行為を繰り返しており、そして、今後も同様な侵害行為が繰り返される蓋然性が高いと認められるから、本件仮処分決定の認定・判断のとおり、保全の必要性があるものと判断する。
【事案の概要】
・控訴人(一審原告):地上測量及び空中写真測量の請負並びに建設コンサルタント業務等を営む会社
・被控訴人(一審被告):青森県地方労働委員会
・補助参加人:全日自労建設一般労働組合青森県本部(以下「県本部」という。)は、全日自労建設一般労働組合の下部組織であり、組合員数は、昭和61年8月当時615名であった。
・補助参加人らは、株式会社である一審原告が誠実に団体交渉に応じないとして,労働委員会である一審被告に対し、一審原告を被申立人にとして不当労働行為救済の申立てをしたところ、一審被告が救済命令を発したため、一審原告が同命令の取消しを求めた。
【結論】
賃上げ要求に対し、具体的な資料を提出しないことは団交拒否に該当(資料提出命令は適応)
【裁判所の判断】
1、判断枠組み
「労働組合法7条2号は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを禁止しているところ、右団体交渉応諾義務とは、当然に誠意をもって誠実に交渉を行うべき義務であると解するのが相当」
2、あてはめ
原告は、補助参加人らとの昭和59年度賃金引上げに関する団体交渉において、団体交渉当時及びその直前に受注が減少しており経営不振となっていること並びに今後の受注見通しも悪く経営状態の改善が望めないことなどを理由として、いわゆるゼロ回答に終始しているものである。
一般に、使用者が、団体交渉において、組合の賃金引上げ要求に対しこのような回答をしているときには、労使間で、
1 使用者の主張する受注の減少及びその見込みが客観的に存在するか、
2 これが存在する場合にも、経費の削減や内部留保の取崩し等経営上の努力によって、なお賃金引上げをする余地がないかどうかをめぐって、交渉が行われるのが通常であり、また、
3 本件のように、組合員が使用者の特定の営業部門に雇用されている場合には、当該組合員の属する営業部門及び使用者の営業全体のそれぞれについて、1、2のような事情があるかどうかが、団体交渉における検討の対象となるのが通常であると考えられるが、
①このような場合(※使用者が組合の賃上げ要求に対しゼロ回答をしている場合)、組合にとっては、使用者の回答の正当性を判断し、また組合の対案を提出するために、使用者側から右1ないし3の各点に関する各種の経理資料の提出を受け、これに分析、検討を加えることが通常必要不可欠であって、使用者側がこのような資料の提供を拒否し、客観的根拠のはっきりしない口頭の説明を繰り返すときには、労使間の団体交渉が実質的な進展を見ないことは明らかである。
②使用者においても、右のような回答をしている以上、信義則上、自己が保有する右1ないし3の各点に関する経理資料を提出する等して回答の根拠を明確にすることが、当然要請されているものといわなければならない。
→本件のように、
(1)団体交渉の対象となっているが、賃金額の決定という労働者にとって最も重要な労働条件の一つであって、
(2)団体交渉の当時、そのまま経過すれば、過去20年以上継続されてきた定期的な賃金引上げが停止されたままの状態で2年目に入るという極めて異例な事態となっており、
(3)問題となっている使用者側の回答の正当性を判断し、補助参加人らの対案を提出するためには、経理資料自体を持ち帰り、これに分析、検討を加えることが必要不可欠であり、
(4)特に本件の場合、客観的には、原告の経営状態に関する説明の正当性について多分に疑問の余地があったというような事情もあり(なお、補助参加人らは、原告との団体交渉において、前記認定の事実(※原告の経営状態)をすべて認識していた訳ではなく、原告の経理資料を入手することができなかったため、むしろ、知ることができなかった事実の方が多かったものと推測されるが、原告の口頭の説明だけで疑問もなく納得できたとは到底考えられない。)、補助参加人らにとって、原告の経営実態を把握するための資料の提供を受ける必要性が極めて大きかったと認められるのであるから、昭和59年度賃金引上げに関する団体交渉において、原告が補助参加人らに対し、単なる口頭の説明をするに止まり、上記1ないし3の各点に関する経理資料を提示するなどして、賃金引上げができない理由について詳細な説明をしなかったことは、誠実に団体交渉に応じなかったものとして、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成するものといわなければならない
【事案の概要】
・申請人X1:会社の取締役
・申請人X2:会社の代表取締役
・被申請人:全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
・会社と被申請人は労使紛争紛争のさなかにあり、被申請人は申請人らの仕事先において面会を実現することは不可能な状態にあったため、組合員数名をして、平成2年10月7日以降ほぼ毎日曜日のように、申請人らのいずれかまたは双方の居宅の門前付近で「X2は四人の不当解雇を撤回し労使の正常化を図れ!!」と書いた横断幕(約80センチメートル×約3m)を掲げるなどして数時間にわたって滞留し申請人らとの面会を強要し、家人らの退去要求にも応じなかった。
・申請人らは、以下の1ないし5の行為の差止を求めた。
1 申請人らまたはその家族に面会を強要すること。
2 申請人らの居宅のインターフォンを連打すること。
3 居宅の塀等に横断幕等をかけたり、横断幕等を掲げたりすること。
4 座り込んだり、滞留したりすること。
5 その他これらに類する行為で、申請人らの私的生活の平穏及び行動の自由を害するような一切の行為(但し、演説を除く)。
【裁判所の判断】
1、面会強要、横断幕、滞留について
右状況下における被申請人組合員の行為は、あながち理解できないではないが、
①申請人らの居宅は職場と切り離された純然たる私宅であり、申請人らには同所において被申請人組合員と面会する義務はない。被申請人組合員の右認定の行為は、平穏な要請の範囲を逸脱したもので、申請人ら及びその家族の私的生活の平穏を害する違法なものといわざるをえない。
②労使紛争は依然解決されておらず、かえって本件審理中にも新たな解雇・処分がなされるなど、会社と被申請人の関係はさらに深刻化しており、被申請人による面会強要行為は今後とも続く可能性が高いと考えられる。
→申請人らはその人格権に基づき、被申請人がその所属の組合員または第三者をして行わせる申請人らまたはその家族に面会を強要したり、居宅の塀に横断幕をかけたり、横断幕を掲げたり、滞留する行為(座りこむ行為を含む。)の差止めを求めることができると考えられるが、申請人らの各居宅周囲の状況等を考慮すると、申請人X1については南側出入口の門を閉門したときの両門扉の接点を起点として、申請人X2については南東側出入口のインターフォンの存する位置を起点としていずれも半径五〇メートル以内の限度において右申請は理由があるといえる。
2、インターフォンの連打について
申請人らは被申請人組合員が申請人らの居宅のインターフォンを約10分間にわたり連打し続ける等インターフォンをみだりに連打するいやがらせをなしたと主張するが、本件全疎明資料によっても右事実は疎明されず、今後被申請人が右のような行為をするおそれを認めることもできないから、この部分の申請は理由がない
3、上記に類する申請人らの私的生活の平穏及び行動の自由を害するような一切の(演説を除く)行為について
本件疎明によれば、被申請人は、以前その組合員をして街宣車で申請人らの各居宅周辺において同人ら個人や会社等を誹謗する演説をさせたことにつき、昭和62年12月8日京都地方裁判所において申請人ら他一名との間で、演説の内容・方法・音量等につき和解したにもかかわらず、右和解条項に違反して申請人らの居宅周辺でシュプレヒコールを繰り返すなどしたため、間接強制の申立てにより、平成2年2月21日京都地方裁判所は被申請人に対し、前記和解条項第一項の不作為義務(被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、申請人らの肩書住所に存する居宅附近において、宣伝車を停車させたり立ち止まったりして、拡声装置を用いるなどして演説させてはならない。)に違反したときは一日につき金3万円の割合による金員の支払を命じる旨の決定をした事実が認められる。
被申請人が今回の面会強要行為の際、右の和解条項に抵触しない行為を選んだという経緯をふまえれば、申請人らがこの際被申請人の次の新たな面会強要行為についても差止めを求めたいと考えること自体は理解できないではない。
しかし、本件における申請の趣旨一5は、あまりにも漠然とした不明確なものであり、本件における全ての疎明資料を総合しても右のような抽象的な行為の禁止を仮処分の方法によって緊急に命じなければならない具体的な理由があることを認めることはできないから、この部分の申請も理由がない。