スーパー・コート事件(大阪地判令和元・11・26労判ジャーナル96号82頁)

【事案の概要】

被告:有料老人ホーム等の経営を業とする株式会社

原告:平成29年11月2日に被告に入社し、看護師の業務に従事

被告は、平成29年11月30日に、原告を看護師業務から一時的に外し、ヘルパー業務に従事させることとし、同年12月16日付けで、他の施設で看護師としての業務を行ってもらう旨を伝えたが、原告がこれに従わなかったため、平成30年3月31日に雇止めした。

原告が配転命令・雇止めの無効・違法を主張して不法行為に基づく損害賠償請求をした。

 

【結論】

有効(勤務場所の限定なし、配転の業務上の必要性あり、不当な動機・目的なし、通常感受すべき程度を著しく超える不利益なし)

 

【裁判所の判断】

1、雇用契約書上の「勤務場所」との関係について

本件雇用契約に係る雇用契約書には、勤務場所として、本件施設が記載されていることが認められる。もっとも、

記雇用契約書には、「雇用条件は、本契約書に定めるもののほか就業規則に定めるところによる」と記載されている

就業規則には、業務上の必要がある場合は配置転換、就業の場所の変更を命ずることがある旨規定されている

原告は、平成29年9月29日の採用面接の際、P3施設長に対し、本件施設以外での勤務が困難であるとは申告しなかった

上記雇用契約書の記載が、就業当初の勤務場所の記載という意味を超えて、就業規則の規定を排して勤務場所を限定する趣旨のものであり、原告と被告との間で勤務場所を本件施設に限定する合意があったと認めることはできない。

 

2、業務上の必要性について

P3施設長及びP4マネージャーは、

①原告より年下かつ若年のP3施設長では原告に対する指導がしにくいが、P4マネージャー(配転先施設の施設長を兼務している。)は原告より年上であり指導がしやすい

本件施設の複数の職員が退職を申し出ており、このままでは本件施設の運営が成り立ち行かない事態になる、

配転先施設には、当時、正社員を含む看護師が8名程度在籍し、原告に対して看護師業務の直接的な指導ができると考えた

原告を配転先施設に配置転換させることとしたものであり、これらは企業の合理的運営に寄与するものであって、業務上の必要性がないとはいえない。
 なお、原告が主張するように、教育目的が仮に本件施設で実現可能であったとしても、より手厚い教育が可能な施設への配置転換という業務上の必要性を否定することはできない。また、被告が、原告と一緒に働けないという他の職員の主張を考慮したとしても、配置転換が原告への教育目的にも資することを踏まえると、原告1人の配置転換と複数名の配置転換とを比較考量し、前者を選択したことをもって業務上の必要性が否定されることにはならない。

 

3、不当な動機・目的について

原告が、従前から被告による本件配置転換に従わない意向を明らかにしていたことを踏まえると、原告が指摘する被告の対応は、原告の行動を予測したものというにすぎない

不当な動機・目的が看取できるとはいえない。

 

4、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について

原告は、P6医師作成の平成29年12月22日付け診断書(本件診断書)を根拠に、原告は配転先施設において就業できない旨主張する。

①本件診断書には、「長時間の歩行は困難であると考えます。」と記載されているが、何分あるいは何時間をもって「長時間」というのかは明らかではない

②また、「本人申告により車・バイクの運転については片道3~5km・30分以内は可能とのことです」との記載もあるが、平成30年1月16日の面談におけるP6医師の説明を併せ鑑みても、原告がそのように申告しているという限りの記載であって、医師としての医学的知見を踏まえた判断が記載されたものとは認め難い
原告の自宅から、本件施設までのバイクによる所要時間は約15分であり、配転先施設までバイクによる所要時間は約22分であると認められること、原告の自宅から本件施設までの距離は約7.5kmであるが、運転に従事する時間ではなく距離の長さが「筋痙縮」に影響するとは考えにくいこと(本件診断書にも、「長時間では筋痙縮を生じるためです。」とされているのみであって、運転距離自体と筋痙縮との関係については記載されていない。)、

→原告が、配転先施設に出勤して就業できない、あるいは本件配転命令に従うことによって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るとは認められない。