【事案の概要】

被告:有料老人ホーム等の経営を業とする株式会社

原告:平成29年11月2日に被告に入社し、看護師の業務に従事

被告は、平成29年11月30日に、原告を看護師業務から一時的に外し、ヘルパー業務に従事させることとし、同年12月16日付けで、他の施設で看護師としての業務を行ってもらう旨を伝えたが、原告がこれに従わなかったため、平成30年3月31日に雇止めした。

原告が配転命令・雇止めの無効・違法を主張して不法行為に基づく損害賠償請求をした。

 

【結論】

配転命令は有効(同判断を紹介した記事のリンク)

雇止めは無効

 

【裁判所の判断】

1、労働契約法19条2号該当性(原告が、本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか否かについて

原告は、被告の総務課に所属するP7社員と平成30年1月頃に協議を行い、この中で、同人から、「フリー業務扱いにして原告の賃金を約2割下げた上で、本件施設にて勤務を継続する」との提案があり、不本意ながらこれに応じたことから、契約更新に対する合理的期待が生じていた旨主張する。
しかしながら、有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があることは、当該有期労働契約の契約期間の満了時に存在する必要があるところ(労契法19条2号)、

原告が、平成30年2月4日、P7社員からの提案を前提としてシフトの返答を持っている旨連絡したものの、その後、被告から、原告は無断欠勤状態にあり、速やかに配転先施設に出社するよう指示する同月5日付け内容証明郵便を受け取っている

②これを受けて、原告が、上記①の被告の返答は間違いではないかとの書面を送付したが、被告から、重ねて、原告が無断欠勤を継続しているとして譴責処分としたとして、速やかに配転先施設へ出社するよう指示する同月18日付け内容証明郵便を受け取っている

原告が、再び、上記①、②の被告の文書は間違いではないかとの書面を送付したが、被告から、再三の出社指示にもかかわらず無断欠勤を継続し、譴責の懲戒処分を受けており、勤務状況が著しく不良であること等を理由として、同年3月31日をもって雇止めする旨の同年2月26日付け「雇用期間満了に関する通知書」と題する内容証明郵便を受け取っている

→同年1月頃のP7社員との協議により、一旦原告に、本件雇用契約が更新されるものとの何らかの期待が生じたとしても、本件雇用契約の契約期間の満了時において、未だ原告に、P7社員との協議等を前提とする合理的理由ある期待が生じていたとは認め難い。

以上に加え、

本件雇用契約上、契約の更新は勤務成績・態度等により判断するとされている

本件配転命令は有効であるにもかかわらず、原告は、被告による同年1月4日(P3施設長によるもの)、5日(P4マネージャーによるもの)、同年2月5日付け及び同月18日付け(いずれも内容証明郵便によるもの)の配転先施設への出勤命令に反し、契約期間満了直前の3か月弱の間、配転先施設へ一度も出勤していない

→原告が、本件雇用契約の契約期間の満了時において、本件雇用契約が更新されるものと期待していたとしても、当該期待は合理的な理由があるものであるとは認められない。


2、労働契約法19条柱書該当性(被告が原告からの更新申込みを拒絶することが、客観的に合理な理由を欠き社会通念上相当であると認められないか否かについて)
原告は、本件配転命令は有効であるにもかかわらず、被告による4度にわたる配転先施設への出勤命令に従わず、本件雇用契約の期間満了直前の3か月弱の間、配転先施設へ一度も出勤していないところ、原告のかかる対応は、本件雇用契約に基づき原告が被告に対して負う労務提供義務に明確に違反するものであり、かつ、それも3か月弱もの長期にわたるものである

→被告が、原告との間の本件雇用契約を更新しないことが、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないとはいえない。

 

【解説】

本裁判例では、雇止めの有効性の判断の前提として、配転命令が有効であることが判断されています。

配転命令が有効であるにもかかわらず、会社が出社を求めるなどしているにもかかわらず労働者が無断欠勤を繰り返しているような状況ではもはや契約更新に対する期待が合理的とはいえないという判断がなされていますので、有期労働契約の労働者が無断欠勤していない場合には放置せずに出勤命令を発しておくことが重要です。

これを怠ってしまうと契約更新に対する期待が合理的であると判断されたり、雇止めをすることについて客観的合理的理由・社会通念上の相当性がないと判断されてしまうリスクがあります。